JOQRテーマ一覧

認知症研究の第一人者・佐藤眞一さんに、オトナ世代の気になる悩みを聞いてみました

f:id:joqr-theme:20210825143915j:plain

●大人の花道!
鈴木 では、ご紹介しましょう。きょうのゲスト、佐藤眞一さんです。

佐藤 よろしくお願いします。

鈴木 佐藤眞一さんのプロフィールをご紹介します。
1956年、東京のお生まれ。早稲田大学大学院で学ばれた後、東京都老人総合研究所研究員などを経て、現在は大阪大学大学院人間科学研究科教授。老人行動学、臨床死生学がご専門で、『ご老人は謎だらけ 老人行動学が解き明かす』『後半生のこころの事典』などのご著書があります。きょうはよろしくお願いします。

佐藤 よろしくお願いします。

残間 私、先生が書いた色々なご著書を拝読していて。主観年齢、自分でどう思うかっていう年齢って、実年齢よりみんな若いと。それは日本人ばっかりかと思っていたら、世界的にそうなんですってね。

佐藤 そうですね。

残間 アメリカだと、70歳の人が、自分のことを40歳代だと思うんだと。

大垣 思っているでしょうね。

残間 でも、逆の人もいるよね。自分ですごく若いと思っているけど、もっと明らかに年寄りの人もいるよね。

大垣 っていうか、そういう人が多いですよね。

佐藤 (笑)。

残間 っていうか、老人って突きつけられると結構ショックだなと思うの。先週ね、帯状疱疹のような湿疹ができたんで、病院に行ったんです。そうしたら、若いお医者さんが。マスクしてメガネしていると、カルテしか見ないでしょう。パッと人の湿疹を見て、「これは老人性脂漏性のものです」って、ものすごく滑舌のいい、明るい大きな声で、女医さんが、老人性って言った時にね。

大垣 失礼な人だな(笑)。

残間 ああ、これは結構小気味いいなと思って。私はその日を、サラダ記念日ならぬ、老人記念日にしましたけどね。でも、あまりにも明るく、屈託なく言われるとね。

大垣 そういうのありますよね。

残間 やっぱり、これから大事ですよね。

佐藤 受け入れるっていうのは大事だと思いますね。

大垣 老いとか、高齢化って、そういうのって意外とこの10年ぐらいだと思うんですよ。社会的に盛り上がったのが。

残間 そうね。

大垣 先生って、もっとずっと前からご専門ですよね。だいたい若い時ってそんなに興味持たないじゃないですか。

残間 そうそう。なんで思ったのかっていうのは、気になった。

佐藤 私は母方の祖母とずっと一緒に暮らしていたんですね。

残間 おばあちゃん。

佐藤 はい。明治生まれの祖母なんですけど。小学生のときに、祖母と一緒に、お話をするのが好きだったんですね。そのおばあちゃんが、本当に、当時まだ70ぐらいだったんですけど、半世紀以上前なので。本当に年寄りという感じでしたね。そのおばあちゃんが、もうすぐ多分死ぬのに、と思ったんですよね。
というのは、私は二つ下のいとこが5歳で亡くなったんですね。そういうことがあったので、その少しあとなんですけど、なんでおばあちゃんはもうすぐ死ぬはずなのに、全然それが怖いと思っていないのか、不思議だと思ったんですよね。
その祖母が、そのあと、今でいうところのアルツハイマー認知症、当時は老年痴呆と言っていたんですけど、それになりまして。介護が非常だったという記憶があって。
そういう、老いとか、死とか、認知症とかに。

残間 早くも、小学生で。

佐藤 はい。中学校のときに亡くなったんですね、祖母が、アルツハイマーになったあとに。そんなことがあって、高校に行って、じゃあ進学だ、どうしようかって考えたときに、そういえば、老いとか、死ぬとかっていうことの勉強ってできないかなと思って、そこが始まりで。

大垣 なるほど。

残間 大垣さんの世界でいうと、ジェロントロジーで、最近老年学っていうのはやたら言われ始めていて。

大垣 私らは金融だから、こんだけ人口が増えると儲かるぜっていう、そっちだもんね。

残間 佐藤先生は、純粋にというか。しかも、既存の、固定観念で高齢者を捉えていないから、不愉快じゃないわけ。私たち高齢者も。

大垣 そうそう。僕もそれを思ったんです、ご著書の中に。『認知症の人の心の中はどうなっているのか?』っていう、あの本がなかなか。

残間 心は生涯発達するというふうに。

大垣 あれって、認知症のところを高齢者に置き換えても、ほとんど当たっていますよね。

残間 でも、心は生涯発達するって言って、じゃあみんな発達するのかっていうと、しない人もいますよって、先生、おっしゃっていてね。内向きの人はダメなんですよね。

佐藤 たとえば、介護を受け入れるって大変なことだと思うんです。私も長年、要介護の方達とお会いしてきましたけど、自分でできないことを受け入れる、要するに、自立できなくなる。自分で自分のことをできなくなる。それができなくなった状態で誰かにやってもらうことを、どう受け入れるかっていうのは、すごく難しいことですよね。

残間 自分を明け渡すが如くって感じがしますもんね、どうしてもね。

佐藤 はい。ただ、中には、周りの方が、この方のためだったら、介護士の方が、仕事じゃ無くても、お世話してあげたいなと思う人がいるっていうことも。逆のこともまあ、ときドキあるんですけどね。

残間 いいね。どういう人。

佐藤 私の書いた本で、ライフイベントっていうのを。これは、認知症とは直接は関係ないんですけど、我々、生きていくと、多くの方が共通して体験することってありますよね。そういうのをライフイベントって呼んでるんですけど、それが高齢になると、次々と起きてきて、しかも、あんまりいいことがないんです。

大垣 (笑)。そうですね。

佐藤 私もガンをしましたけど。

残間 ああ・・・。

佐藤 もう手術をしましたけど、そういうこととか。親が亡くなることもありましたし、弟も亡くなりましたし。とか。さまざまな、そういう出来事があって、そのときにやっぱり、考えるんですね。これをどうやって乗り切ったかっていうことを。
その考える積み重ねっていうのが、だんだん、高齢の方っていうのは、自分のものになっていく人が多いんじゃないかなと思いますね。

残間 さっき、心は生涯発達するって書いてらしたけど、そうならない人は、外に行かないとか、新しいことに接しないとか、私が団塊の世代の男の人をダメなのよって最近言うのは、結構、出世した人でも、サラリーマンって、家に帰ってくると、何もないのね。流石に、70過ぎるとないんですよ。
それまではいろんな、細々やってても。そうすると、本当に家で、猫。保護猫を膝に乗せていて。嘘じゃないの。保護猫の保護っていうのが、社会と繋がっている唯一の、自分の、接点みたいな人になると、全然心、発達してないの。会うの嫌になってくるの、だんだん。

大垣 そうかもね。

鈴木 このあとも佐藤先生にはお話を伺っていきたいと思います。

●おとなライフ・アカデミー2021
鈴木 引き続き、佐藤眞一さんにお話をうかがっていきます。よろしくお願いします。

大垣 私、金融機関におりましたでしょう。そうすると、長谷川式っていうのがございまして。

残間 認知症のテスト。

大垣 認知症のチェックをすると。これは酷くて。こんなもの、お客様に聞くんですかって。「私たちが今いるところはどこですか」とか。

残間 金融機関にいると、お客様に聞くの?

大垣 これでやりなさいって言われるんですけど、やってるの見たことないんです。

残間 金融機関の人って、ただでさえでかい態度なのに。

鈴木 でも、スタンダードなね。長谷川式の。

残間 私もやられたことあるけど、バカにおしでないよって言いたくなるよね。

大垣 先生の、CANDy(日常会話式認知機能評価)っていうのは、そういう意味では、普通の会話をしながら。

残間 認知能力を。

大垣 これはそれなりに技術がいると思うんですけど、そういう方っていうのは、そういうことができる方っていうのが増えてきてらっしゃるんでしょうか。

佐藤 ホームページがありまして、どなたでもダウンロードできるんですけど、一緒にマニュアルが。会話のマニュアルもつけていまして、それを読んでいただくと、どういう会話をして、どういうポイントでチェックするのかっていうことが分かるようになっているので。それで見ていただいてやっていただくということなんですけど。
主には、施設などで使っていただいているので。そういうところは、専門家の方達なので、ある程度認知症のこととかも分かっていて、こういうマニュアルを見ながらであれば、チェックできたりしますからね。

残間 本当の認知症の方は、さっきの、猫とか、電車とか、サクラとかっていうのを、雑談した後にもう一回聞くじゃない。

大垣 でも、こんなんやらないでも分かるわね。

残間 本当にかかってらっしゃる方は、分からないでしょうね。雑談した後に聞くと、猫だったか、犬だったか。まあ、猫と犬編と、両方あるんだけど。

大垣 あと、やっぱり、僕、認知症は残酷だなと思うのは、デジタルじゃないじゃないですか。今日から認知症っていうんじゃなくて、多分、ちょっと、そうかも? っていうところから始まって。

残間 それと、ご本人が認識している場合が、とても気の毒ですよね。

大垣 そうすると、プロの方がご覧になって、そうかなって思うところにいっちゃえば、まあ、ある種問題が出ちゃってるのだと思うんですが。例えば、夫婦で、「そうかも」っていうのがあるって。そういうのにも、CANDyっていうのは、それなりに。

佐藤 そうですね、会話の中で、ちょっとこのへんがっていうときに、どういうことでそう思われたんですかっていうので尋ねると、こういうような会話だったっていうのを、これでチェックして。

残間 でもね、最近、やっぱり、女友達から、ちょっと主人がどうもそうらしいのっていう相談を受けたんですよ。ご主人も気がつくんだって。この間のことを忘れたとか。流石にご飯を食べたのは忘れないけれども、中身は忘れたりっていうのはやっぱりあるらしいんですね。何食べたかって。まあ、それは私も忘れますけど(笑)。
だけど、最近の、近過去を忘れるらしいんですね。

大垣 うーん。

残間 昔のことは覚えていて。

大垣 それ、だいぶ分かるようになってきましたね。僕は認知症じゃないかって思うぐらい忘れるけど、それは違うんだね。

残間 英語ができる人は、後天的に覚えた学習は覚えてるんですね。

佐藤 でもですね。

残間 それも、だんだん?

佐藤 はい。第二言語だと、認知症になると忘れますね。

残間 そうですか。

佐藤 日本に来られて、子供の頃から日本で暮らして、日本語を覚えた方でも、母国語でない場合は、できなくなる。

大垣 運動とかは大丈夫だって言いますよね。自転車とかね。

佐藤 はい。

残間 まさに、今、他人事ではないと。もう少し経つと、5人に一人とか言ってるでしょう。65歳以上の人は、何人でしたっけ。

佐藤 今、15パーセントぐらい。

大垣 95だと7割超えるっていう統計があるんですよね。そうすると、もはや病気じゃないですよね、率直な話。

佐藤 そうですね(笑)。

残間 95の人たちのコミュニティだと普通だもんね。

大垣 どっちかっていうとマジョリティですよね。その状態に向かっていくわけだから。病気じゃないと思うんですよね。生きてること自体だと思うんですよね。だから、それはやっぱり、なっちゃったから対処するっていうものじゃなくて、くるっていう前提で、やっていかないといけないっていうんですかね。
そういう意味では、論語に、60になったら耳に従うみたいなのあるじゃないですか。
それに、「七十にして、心の欲する所に従いて矩(のり)を踰えず」っていうのがあって。あれ、桑原武夫の本だと、ものすごい自由人になったっていうよりは、じいさんになってパワーがなくなって、すごい自分のしたいようにしているんだけど、全然一線を超えないんだよ、みたいに読む、みたいなことが書いてあって。なるほどそうかなと思って読んだりしたことがあって。準備していくんだよと、そんなことが書いてあるような感じがして。
先生から見て、どういうふうに思われますか。やっぱり、日常で、そういうものに普通に接していかないといけないっていう感じが起きてるんじゃないかと思うんですけど。

佐藤 一つは、病気かどうかっていう問題なんですけど。病気であると考えないと、治療する方法の研究が進まないので。

大垣 もちろん、そうですね。

佐藤 特に認知症認知症といってもいろいろな種類の原因・疾患がありますけれども、原因が何で、それは取り除くことができるのかどうか、予防できるのかどうかっていうのは、やっぱり、進めていかないといけないと思うんです。一方で、現時点で、例えばアルツハイマー認知症と言われる、アルツハイマー病っていうのは、脳の神経細胞の変性っていうんですけど、毒性を持ってしまうわけですけど。細胞が。それになると、根治することができないし、なってしまうと、直すことはできない。今、最近、新しく薬ができたっていう報道は、進む前の段階で投与しないといけない。なってしまって、少し進んでしまうと、それはもう元には戻らない。

残間 治療はできないけれども、止めることはできるって、一般にみんな信じてますが、それはどうなんですか。

佐藤 そういう薬が効果あればできるかもしれませんけど、現時点では、今のところは、ちょっとまだ難しいですね。例えばアルツハイマー認知症の進行を止めるっていうことは、今はできないですね。
ただ、脳に障害があったからといって、皆さんが同じように悪くなるわけではないんですね。人によって違いますし、それから、色々な問題が出てくるといっても、その問題の出方も人によって違うので。それはやっぱり、対応の仕方によって。

残間 よく、こういう人がなりやすいとか、こういう人はなりにくいって言って、みんな自分で救われたり、一喜一憂していますが、先生からご覧になるとどうですか。

佐藤 認知症というのはやっぱり、病気なものですから、こういう人はガンになりにくいとかっていうのは、よく言われますけど、ああいう、健康状態以上のことは多分言えないと思いますね。体にいいっていうことは、もしかしたらいいのかもしれませんけど。例えば、この人はこういう性格だからなりにくいっていうことは、なかなか言えない。

残間 そうなんだ。良妻賢母で、ずっと長い間、抑えてた人が、発症しやすいとかね。几帳面な人ほどそうなりやすいとか、ズボラにガス抜きが上手な人はならないとかって、風説で、一般的に言われてますけど、そんなのあんまりないんですね。

佐藤 はい。例えば、認知症になったら、今までとは違う状態になるわけなので。今までというのがあまりにも立派な方だと、その差にビックリされるかもしれませんね。ただやっぱり、もともと人間関係が好きな方っていうのは、認知症になっても閉じこもらなかったりするので、状態がいいまま保たれる可能性があったりっていうのは。

残間 私、先生の本で救われたのは、歳をとると、あんまりネガティブじゃなくなるっていうことを、さっきもお話しされてましたが。あまりみんな、考えないと。言われてみるとうちの母なんかは99歳で死にましたが、やっぱり、人の死に対して鈍感に。80代ぐらいから、「お母さん、あの人亡くなったよ」って言っても、あっそう、とかって。へ? って思ったんだけど、死に対して非常に遠くなったっていうか、近づいてるのに、想念としては遠くなってるっていう感じを受けたんですけど。やっぱりそういう、ポジティブな方向に行くのが、高齢者の、ある種の、癖というか、方向性なんですかね。

佐藤 最近、そういうことが研究の中でも話題になっていて。歳をとっていくと、残された時間を遡って考えるようになるので。それがポジティブな方向にいく秘訣なんじゃないかと。若い人は、逆に、先がわからないので。生まれてきてからを順番に考える。なので、危険を察知しやすいんですね。っていうことが言われているので。先程の祖母の話もそうですけど、そういうことがあるのかもしれないし。あるいは、周りで亡くなる方が増えると、自分が、今、高齢の方で、身内とか、お友達を亡くした方はたくさんいらっしゃると思うんですけど、そういう方達が亡くなるたびに、やっぱり、自分のときはどうなるんだろうって。そういう、考えますよね。

残間 だんだん私の周りなんか、亡くなる人が多いので、あの世にいったらみんな友達がいるって思って、ちょっと怖くなくなってきたっていうのがありますね。

佐藤 そういうことも関係しているんだろうなと思いますけど。

鈴木 まだまだお話を伺いたいんですけれども、お時間になってしまいました。

大垣 あっ、そうか。

残間 先生のご本をぜひ、拝読すると。

大垣 そうですね、本当に面白いですよね。

残間 ちょっとほっとするというか。そうなのかってなりますよね。

鈴木 そうですね。ベストセラー『漫画 認知症』『認知症の人の心の中はどうなっているのか』など、ご著書もたくさんあります。

残間 『ご老人は謎だらけ』っていうのもあります。

大垣 あれは面白いですね。

鈴木 ぜひ、読んでみてください。きょうは、老年行動学がご専門の心理学者、佐藤眞一さんにお話を伺いました。ありがとうございました。

鈴木 ありがとうございました。