心理カウンセラーの下園壮太さんと語る、大人世代とカウンセリング(ラジオ放送書き起こし)
●おとなの花道
鈴木 では、ご紹介しましょう。きょうのゲスト、下園壮太さんです、よろしくお願いします。
一同 よろしくお願いします。
鈴木 下園壮太さんのプロフィールをご紹介します。
心理カウンセラー、メンタルレスキュー協会理事長。
1959年、鹿児島のお生まれで、防衛大学卒業後、陸上自衛隊に入隊されました。
陸上自衛隊初の心理教官として、多くのカウンセリングを経験され、2015年に定年退官。
その後もカウンセリングを続けられる一方で、カウンセラーの育成や執筆活動など行っていらっしゃいます。
ご著書は、先ほどご紹介した『自衛隊メンタル教官が教える 50代から心を整える技術』や
『とにかくメンタル強くしたいんですが、どうしたら良いですか?』ほか数多くございます。
残間 下園先生のホームページを見たら、「子供の強さ」は我慢とか、努力だけど、大人の強さは柔軟さやしなやかさよ、大垣さん。
大垣 諦めるとかっていうことですよね。私ちょうど、同い年なんです。私も1959年なんです。やっぱり、50代のあたりが転機なんですか。僕は今みたいな気がするんですけど。
下園 私が色々なクライアントさんを見ていると、ま図、40代に一つ節目があるような気がします。
大垣 それはあるかも。
下園 若い頃の自分と、それがうまくいかなくなってくる自分。それから次は、人生100年ってなったときに、50、60。このあたりにどうプランを変えていくか、バージョンアップしていくかっていうのが大きな問題になりつつある。
大垣 先程の新書なんかですと、自衛官の方は、50代だけれどもって書いてらっしゃるんだけど。実は私も、ごく最近なんですけど、大手の企業の方と取引をさせていただいているときに、ミーティングのあとに「ちょっと大垣さん、二人で」って言われて、52歳の方なんですけど、「実はもう、私ももう、ほとんど同期で残っていなくて、今回出ることになりました」って言うんですね。
残間 企業で? 普通の。52で?
大垣 はい。「私なんかは遅いほうなんですけど」っておっしゃるので。案外、早いこと動き出しているんじゃないかなと。
残間 最近、経済界の人も、40代はいらないとか、いろんなことを言ってるからね。
大垣 そう。率直に、受け止め方としては叩かれている感じでしょうね、肩を。
下園 そういうところもあると思うんです。が、とくに去年からコロナがありまして。前から続いている波もあって、むしろ、積極的に自分から、このキャリアではないキャリアを、自分で進まれる方も結構いらっしゃる。
大垣 そうなると、逆にあんまりメンタルっていうのは起きないんでしょうね。
下園 いえいえ、そうでもないですね。
大垣 そうでもないですか。
残間 私、経歴を拝見していて、陸上自衛隊で始めての心理教官。初めて知ったんですけど。そこに採用されるっていうのはどういうことだったんですか。
下園 これは、米軍などがもともと持っていた機能があったんです。災害派遣とか、まさに戦争とかで、命をかけて戦う、あるいは同僚が亡くなるときに、仕事を続けなきゃいけない。で、なんらかのサポートが欲しいわけですよね。米軍は、牧師さんがやるんですよ。
大垣 ああ、そうなんですね。
下園 で、その牧師さんというのは、たとえば歩兵とか、戦車兵とかの軸と同じように、牧師さんのグループ、職種があるぐらい、とても重要視されているんです。
残間 だって、ベトナム戦争の後なんて、ものすごくたくさんね。心にみんな。
大垣 アフガンだってね。
残間 打撃を受けた人たちがいっぱいいましたもんね。
下園 一説によると、ベトナム戦争の場合は、戦場でお亡くなりになった方より、帰ってきて自殺された方のほうが多いというくらいだったんです。自衛隊でも、いよいよ活動するようになったときに、やっぱりメンタルをどうやってケアしようかとしたときに、なかなか日本っていうのは、宗教観をベースにすることは難しかったので。それを、心理学的な知見で支える専門家を部内で育成しようということでやりました。
残間 自衛官になろうと思って入ったんじゃないんですか。
下園 自衛官になろうと思って入ってました。
大垣 防衛大学に行かれたんですよね。
下園 そういうムーブメントがあったのが、私が35。実際に心理職に手を染めたのは40ぐらいです。
大垣 じゃあ、大学でおやりになっていたっていうよりは、お仕事の中でっていう感じだったんですね。
下園 はい。
残間 でもやっぱり、適性があるからやってって言われたわけですよね。
下園 適正と。あと、自衛隊の場合、命令が来ますので(笑)。
残間 命令を下すからには、そこに何か。
下園 そうだと思います。私もそういうのに興味があったことと、上司が私のなんらかのね。
大垣 それは、おありになったんでしょうね。
下園 なんとかやってまいりました。
●大人の一曲
鈴木 まだまだ下園さんにお話を伺ってまいりますが、ここで音楽を挟みたいと思います。
●人生100年時代研究所
残間 今のインフォマーシャルでも、「カウンセリング」っていう言葉が出てきたけど。
下園 そうですね。
大垣 これは単に、アドバイスみたいなものだけど。
残間 そういうところにも使われるようになったのは、なかなかのことで。私たちも、何か困ったときに、カウンセリングを受けるとか、精神科に行くとか、そういうのって、すごく抵抗があった時代が長かった。
大垣 でも、僕、下園さんにお聞きしたいんですけど、先生の本を読んでいましても、自分自身のことを考えても、ものすごいたくさんの人が、ほぼ100パーセント、男なんてこのぐらいの歳になると、カウンセリングしてもらったほうがいい状態になるっていうか。ある種日本って、定年なんていうのがはっきり決まってるので、ある意味で、ゴソッとそういうふうな年になるっていうことが起こりますよね。どこに行くんですかね、カウンセリングって言われたときに。
下園 なるほど。結局カウンセリングって、今のお話でもそうですけど、先程の、コロナになってからメンタルが弱くなりましたとかっていうのも、要は、人に相談すれば私、カウンセリングだと。
大垣 へえ。
下園 カウンセリングというよりも、相談ということがとてもパワーを持つんだと思うんです。そこで、皆さんがちょっと誤解されているのは、相談というのが、新しい知識や情報を得ることだと思ってらっしゃるんです。
残間 回答がくると思っている。
下園 これだったら、グーグルに負けちゃうんですよ。
大垣 そりゃそうですね。
下園 もう今、誰に相談するよりも、ネットに相談したほうが、情報は入ります。でも、実際は私のところに、いろんな方が来るのはなぜかというと、私からの情報ということじゃなくて、人は、ある程度いろんなピンチになると、感情がたくさん出てくるんです。不安とか、怒りとか、妬みとか。そうすると、大脳が冷静なコンピューターで亡くなっちゃいます。ところが、人にお話をするとなると、まず言葉でゆっくりお話をするので、イメージがポンポンと続く、不安に乗っ取られた思考じゃなくなるんです。
大垣 なるほど。
下園 まず、言葉でゆっくりとお話をするということがとても重要なポイントになります。もう一個は、その相手が、おそらく、残間さんなんかの場合は、相手の人の話をすごく分かってくださる感じがあると思うんです。分かってもらえるとすると、落ち着きますよね。安心します。安心すると感情が落ちて、頭が冷静に働きだします。これを「脳の再起動」と私は呼んでいますけど。再起動プロセスとして、相談を活用すればいいと。
大垣 そうすると、やっぱり、身近に相談できる人がいることが大切ですね。
下園 一番大事です。
残間 でも、男の人って苦手でしょう。
大垣 そう。
残間 威信が傷つくとか。どうやって相談していいか分からないとか。
大垣 っていうか、相手がいませんよね、あんまり。奥さんに聞くかっていうと、それと違った相談になっちゃうし、聞いてもらえることもあるけれども、違うこともありますよね。
残間 それは聞かないよね。親友もあんまりいないしね。
大垣 うん。で、親友って言っても、会社が絡んじゃってると、結局そんなには聞けないので、すごく違ったところの。
残間 といって、幼なじみになんの仕事も関係ない人に言っても、これまた分からないんですよね。
大垣 そうですよね。だから本当は、聞いてくださる、学校なんかそういうのがあるんだけどね。
残間 どういう人が、下園さんのところには、昨今。男の人だと。
下園 まさに相談というのの難しさを今お話しいただいたと思うんですけれども。ジャンルがある程度わかっていたほうが、話は早いですよね。一方で、分かりすぎていると、アドバイスのほうをもらっちゃって、私のほうが分かってもらった感じがしない。それと、弱いところをお話しすると、吹聴されそうで、特に男性の場合は弱音を吐けないというのはあります。そこでお金を払えば、カウンセリングという場を確保できる。昔は、親戚のよくできるおじさん・おばさんとか、かっこいいおばさんとか、そういう方々。あるいは、近所の「あのおじさんはすごい」っていうような方々がいらっしゃったんですけど、なかなか本当にいなくなりましたね。
残間 いなくなりましたね。
下園 男性は、実は、カウンセリングというのを、上手に活用できるのは女性のほうなんです。
大垣 そうですね。
下園 圧倒的に。男性はどうしても、自分のことを表現できにくいので。そうすると、男性の場合、先ほども言った、しっかり前々から知っていた人に、例を尽くして、人間関係を保っておくか、割り切って、コーチングとかカウンセリングとか。
残間 ああ、コーチングがありますね。
大垣 コーチングとか書いてあるようなものが、それに当たるんですか。
下園 そうです。私のところでも、1ヶ月にいっぺん、何もなくてもお話をされて、自分の感情も含めて、あらいざらいお話しを。
残間 講座をやってらっしゃいますよね。
下園 はい。
大垣 アメリカの映画なんか見ててもよくありますけど、カウンセラーっていうのは、本当に、法律で守秘義務が保護されていたりとか、非常にキチッとした制度で、でも気軽にみんなが行けるところがありますよね。
残間 アメリカの女性映画なんかみてると、インド人の女の人とかがお香焚いたりしていて、フニャフニャーって。
大垣 だから、そんなんじゃなくて。
残間 そういうところに、「私カウンセリングに行ってくる」って言って、行くような場面って結構出てきますよね。占いともつかず。
大垣 普通のところはありますよね。もうちょっと、怪しくないやつが。
残間 怪しいっていうのでもなくて、やっぱり話を聞いてもらって。
大垣 そうなんだけど。日本はそういう意味での、職業としてのカウンセリングっていうと、ちょっと病気に近くなるんですか。それとも、そういうのがあるんですか。
下園 どうしても、カウンセリングが、ちょっと学問的っていうか、医療的な教育をする人たちが多いので。ただ、私自身が現場で考えていると、カウンセリングっていうしゃちほこばった感じじゃなくて、相談だと考えると、占いでも。
大垣 ああ、そうですね。占いってそういう機能がありますもんね。
下園 要は、その方が整理ができれば、なんでもありじゃないかと。
残間 心の整理をして差し上げるんだね。
大垣 京都では、そういう意味では、霊能師の方が。
残間 陰陽師みたいな。
大垣 いや、「ウーン」とかやってて、何が見える、とかっておっしゃるんですけど、案外それでも納得して。
残間 恐山にでも行ったほうがいいよね、そういう方は。
下園 みなさんから、昔はお坊さんのお説教とか、神父のお説教とかね。そういうもので、自分の「こう考えたらいいのかな」ってヒントになりさえすれば。
残間 それと、自殺をする人が増えているのも、アフターケアっていう言い方も変ですが、自殺を遂げる人の数もすごいんですが、実は、未遂でとても傷ついている人、倍ぐらいの数がいますよね。そのへんもやっていらっしゃるんですよね。
下園 そうですね。
大垣 なるほど。
下園 私のキャリアの中で、かなりその部分はたくさん関わってきました。自衛隊っていうのは、規模が大きいので、どこかで、1週間に1回ぐらい・・・今はだいぶ下がりましたけど、1週間に1回ぐらい、どこかの隊員が自殺でお亡くなりになってしまうっていうことがあったりするんです。そういう時に、私たちのスタッフが飛んで、周囲の人たちの心のケアをするっていうのをたくさんやってきましたよね。
残間 未遂の人たちのケアも大変ですよね。
下園 実は、未遂のほうが大変です。
残間 そうですよね。二度とそういうところに行かないようにするっていうのは、難しいんですってね。
下園 周囲の方の動揺がですね。本人にこれからどう接していこうかっていう、新たなテーマがありますので、本当に大変ですね。
残間 これから高齢者、私たちもだんだん増えていくし、大変ですけれども、ある意味ではやりがいもおありになる仕事でしょう。
下園 この仕事は、実際に、サポートすれば、それなりに元気になってくださることが多いので、本当、それは励みになります。
残間 お会いしているとやっぱり、柔和なね。穏やかな感じが、なんでも聞いてくれそう、みたいに思うもんね。
大垣 フラッと、下園さんに。ホームメンタルカウンセラーみたいな、できるといいのになと思って。
残間 お一人じゃ大変だから、そういう仕組みをつくってね。
下園 それを作るために・・・。
大垣 あっ、メンタルレスキュー協会っていうのが。
下園 はい。メンタルレスキュー協会で、現場の、非常に強い力を持っているカウンセラーを育成しようと。
大垣 ああ。
下園 単に知識だけじゃなくて、本当に、実技で。
残間 気持ちに寄り添う。
下園 そうです。そういうことが実際にできるカウンセラーを。
残間 この名刺はなんですか。
下園 それが原始人なんです。
残間 こっちは。
下園 サイですね。私の展開している理論が、原始人理論と言いまして。いわゆる「ストレス」というのは悪くないですよって言ってるんですね。ストレスっていうのは、原始人が、サイとかクマに会ったときに、身を守るための反応であると。たとえば不眠っていうと、みなさん病気って思うと、「不眠になっちゃった、どうしよう」と思うじゃないですか。逆に、原始時代は、サイに会ったら、その夜は、あんまり寝ないほうがいいわけです。なぜかというと、猛獣が近くにいるということで、寝たら、襲われるかもしれない。
大垣 基本的にそういう構造になっているんですね。
下園 そうです。だから、あなたはきっちり原始人モードで対応できてるよって言ってあげたほうが、そうなんですね、と落ち着く。
残間 ちゃんと意味があるんだね。
鈴木 そうだったんですね。
大垣 そうかあ。
下園 一つの解釈を差し上げれば、どう捉えるかで、自分の不安っていうのはだいぶ変わってきますからね。
大垣 最初にアドバイスとしては、そうは言ってもあんまり肩肘張らずに、まずは誰かにしゃべってみようよっていう。
下園 それは本当に大きいです。ただ、男性の場合は練習しないとダメです。
大垣 そういうことなんです。
下園 話す練習というか、打ち明ける練習ですね。女性は得意ですよ。
大垣 ポイントは。練習の。
下園 練習なので、実は、たとえばぬいぐるみに話すとか、そういうことから始めてもいいわけです。
残間 飼ってる犬とか、猫とか。
大垣 ペットとかね。下園人形みたいなものがあれば。
一同 (笑)。
大垣 話したくなるな、みたいな。
下園 今後は、カウンセリングってだいぶAIがやれるようになると思うんです。
大垣 これ、AIができるんですかね。
下園 AIのほうが優秀だと思います。
大垣 そうですか。それは期待が大きいな。
下園 というか、AIを使えるぐらい、人間が優秀っていったらいいでしょうか。どういうことかというと、AIBOっていたじゃないですか。AIBOは、あんまり反応しませんよね。でもそこに、先ほどのぬいぐるみと同じように、感情移入が簡単にできちゃうんですよ。
鈴木 心を寄せることができるということですね。
下園 そうです。
大垣 AI人形カウンセリーとか出てきて、喋りかけて。
鈴木 まだまだお話はつきませんが・・・。
大垣 えっ、もう終わり。残念だな。
残間 壮太ちゃんっていいんじゃない。
下園 いいですねえ。
鈴木 きょうは自衛隊出身の心理カウンセラーで、メンタルレスキュー協会理事長、下園壮太さんにお越しいただきました。ありがとうございました。
残間 またぜひお会いしたいです。
大垣 またぜひよろしくお願いします。