人生100年時代の介護は、事前の覚悟が重要です。介護・暮らしジャーナリストの太田差惠子さんをゲストにお招きしました
鈴木 「介護離職」という言葉が一般的になってきています。
大垣さん、残間さんの身近に、介護のために人生が大きく変わったという方はいらっしゃいますか?
残間 ものすごくいますよ。それに、離職とまではいかなくても、やっぱり、親兄弟だったりすると。それから、やっぱり最近、私の周辺は、配偶者の介護が始まってきているから。
大垣 そうね。
残間 それなりに、自分が行きたい方向に行けるっていう人は少ないですね、介護をやっている人は。
鈴木 きょうは介護の専門家をお迎えします。
●大人の花道
鈴木 きょうはお客様をお迎えしています。介護・暮らしジャーナリストの太田差惠子さんです。
太田さんはファイナンシャル・プランナーでNPO法人パオッコ理事長でもいらっしゃいます。太田さん、よろしくお願いします。
太田 よろしくお願いします。
鈴木 まず、太田差惠子さんのプロフィールから。
大垣さんと同じく京都市のお生まれなんですね。
太田 そうです。
鈴木 介護保険が制度化される以前、1990年代から「介護は親のお金を使う」「介護離職はなるべく避ける」など、人生100年時代に無理なく介護を続けるための情報発信を続けていらっしゃいます。
ご著書も多数出版されていますが、最近では、お笑いコンビ「メイプル超合金」安藤なつさんとの共著『知っトク介護 弱った親と自分を守る お金とおトクなサービス超入門』(カドカワ、2022年)が話題となっています。
大垣 実は、JTIの借り上げの制度を、その中でご紹介をいただいたんですよね。そんなご縁で、きょうはぜひと。
鈴木 お笑いの方とのコラボっていうのは、どんなところから企画がスタートしたのでしょうか。
太田 編集部のほうからの話なんですが。今まで、たくさん本を出しているんですが、だいたい私の本っていうのは、大変になってから書店に駆け込まれて、購入してくださっているようなんですね。今回の本に関しますと、直面する前に、ざっくりは知っておこうというコンセプトの企画なので。これはとてもいいなと思いまして、私も著者の一人として参加いたしました。
大垣 先ほどの借り上げの話も触れていただいたんですが、認知症になられてからだと動きが取れないんですよね。
太田 そうなんです。
大垣 特に、家のことは全部、裁判所の許可がいりますとか、そんなふうになっていて。
残間 成年後見人制度にしてもね。
大垣 一番可哀想だった話は、それをやっているうちに亡くなられてしまって。で、今度は奥様が認知症になられてっていうので、無間地獄みたいな感じになっていたりとか。
太田 そうですね。
大垣 事前に備えるって大事なことですよね。
太田 知らないがゆえに、介護保険のことも、ほとんどの人は、制度があることはもちろんご存じでも。
たとえば、最初の相談窓口である地域包括支援センターというところのことも、ご存知ないし。とにかく親が倒れて、今、入院期間が短いから、あっという間に退院が来て、どうしようっていうことで。そして、バタバタとなるわけですけれども。
だから、そこで仕事を辞めるとか。
残間 辞めざるを得ないってね。誰も見る人がいないのでね。
太田 そうですね。あと、お金をどうしようだけど、もうお金のことを言ってられないって。お金のことは後で考えようとかっていうことで、どんどん厳しい状況に追い込まれていく人とか。
介護って、子供がすることが確かに多いとは思うんです。だから、お金のことも、子供がやって当たり前なんだって思い込んでいる人って、非常に多くて。でも、実際問題無理ですよね。40代、50代で。
残間 一番大変だしね。
太田 一番大変なときですよね。そこに親の介護のお金を、もし注ぎ込んでいくとしたら。そうすると、自分のときはどうするのっていう話です。
大垣 その通りですね。
太田 今現在もどうだし、これからどんどん厳しくなりますよね。今のご高齢者は、年金などもまだ。
残間 今はまだね、少しいいけどね。
太田 ここまでの高齢者は滑り込みセーフのところがあって。ただ、一方で、今のシニア世代も、子供に迷惑はかけたくないっておっしゃる。
残間 そういう宣伝、すごく多いよね。葬式代とちょっと残したい、みたいな。
大垣 物理的には介護っていうのは、仕事もありますからしないですけど、うちはおばあちゃんが20年ぐらい、80過ぎたあたりで腰を割っちゃって、母が介護をして、最後は施設だったんですけれども。ちょうどニューヨークにいるときだったんです。それで、遠距離介護も二つあるんだと思うんですけど、遠距離で行くのが大変っていう介護と。私は、遠距離なので、お金しかサポートできないっていう。僕らの世代って、そういうもんだって思っていて。
残間 きてもらっても役に立たないしね。
大垣 で、やっぱり、お金は長男が持つものだって。
残間 そういうのが、まだあった。
大垣 ありましたね。で、何を考えたかっていうと、すぐに転職。で、ニューヨークで外資系の。僕はたまたま金融機関に勤めていたので、マーケットに出れば、会社でもらっている10倍ぐらいの値段がつくじゃないですか。
鈴木 転職のきっかけが介護だったんですか。
大垣 そうです。それで、決めて。先輩の方が、たまたま本部の仕事でいらしていたときに。結構マッチョな人でね。その人が「自由の女神のところに連れて行け」っていうから、「僕、もう辞めようと思うんです」って言ったら、そうでもないんじゃないって言って、すぐ戻れっていう話になって。それからは、毎月、めちゃくちゃかかるじゃないですか。遠距離だと。だから、それを払うための。それが主たるあれじゃないけど。
残間 一つの要因。
大垣 ものすごく大きな要因でしたよね。大変ですよね。
太田 自分も老いていかなければいけないっていうことが。
残間 私たちの親世代って、どこかで、子供が見てくれるって思っていて。非常にリベラルな、労働運動なんかしている、社会運動家だった母でさえも、娘と息子がいるんですが、やっぱり娘だっていうふうになっちゃうのよね、なんとなく。
大垣 世話になるのはね。でも、本当に物理的に世話になるのは娘だっていうのは、それはそうなんじゃないですか。
残間 多分、気が楽だと思うんだよね。息子の配偶者に頼むよりはね。
大垣 そんなの、絶対俺、おむつ替えてほしくない・・・(笑)。
残間 だけど、たまに息子が来ると、「お姉ちゃんは本当にうるさくて辛いの」って言って、愚痴ってるけどね。それもよくある話だから、いいんだけどね。
●大人の一曲
鈴木 引き続き、太田差惠子さんにお話をうかがっていきますが・・・。
ここで、音楽をお届けします。今日は第一土曜日なので、大垣さんのセレクションです。
残間 また変わった曲を言ってきたな。
大垣 こういう、戦争とかが起きてしまっている時期なので。亡くなられたり、可哀想な目におあいになっている方もいらっしゃるので、久しぶりに、フォーレのレクイエムで有名なもので、一番いいところを聞いていただきたいと思います。
鈴木 ガブリエル・フォーレ作品48二短調の第4曲「ピエ・イエス(レクイエム)」から。
〜♪〜
鈴木 ガブリエル・フォーレ作品48二短調の第4曲「ピエ・イエス」でした。
●おとなライフ・アカデミー2022
鈴木 今週は、ゲストに、介護・暮らしジャーナリストの太田差惠子さんをお迎えしています。引き続きよろしくお願いします。
大垣 先ほど、ちょうど遠距離のお話になって。遠距離介護の本もお書きになっていますよね。案外、そういう視点で書いた本ってないですよね。
太田 遠距離介護っていう言葉は私が作りました。
大垣 そうなんだ! そういう中で、どういうことがポイントになるんですか。
太田 遠距離介護が、他の介護と違うポイントですか。
大垣 あるいは、文化放送のリスナーさんって、おそらくご実家が遠い方も多いと思うんです。そういうときに、本の中のポイントみたいなものを。
残間 実家から離れて東京にきたり、団塊の世代なんか、全部大体そうですけど。子供が多いので、みんな、次男からは都会で働くっていう。結局、実家が遠いっていうことですよね。
太田 一昔前は、遠方に親がいたら、何かあったら自分がUターンして介護するとか、呼び寄せてこっちにきてもらう、そして介護するっていうことだったわけです。今現在も、そう思って、親が具合悪くなると呼び寄せかUターンかっていうところで、とりあえず皆さん悩まれるんです。でも、自分の仕事とかあるし。そうすると、Uターンは無理で、じゃあきてもらおうっていうことになるんですよ。
でも、親御さんのほうを取材すると・・・。
大垣 それは無理ですよね。
太田 「東京なんか行きたくない」と。
残間 だって、コミュニティがあってね。
太田 すでにコミュニティがあるから。私は、連れてくるのは、もちろんそれで、中にはハッピーになる方もあるとは思うんですけれども、うまくいかないケースのほうが、今まで取材してきた感じでは多いと感じています。
残間 暮らし方が違いますものね。
太田 それだったら、お互い離れたままで、お互い、今の生活を維持したままで、親を介護しようっていうのが遠距離介護です。そのためには、入浴、排泄、食事の介助をどうするんだっていう話になるんですけれども、それは、プロにやって貰えばいいと思うんです。
もちろん帰ったときとか、できるときは自分たちで。だから、親の様子をしっかりと見て、今この親は何ができて、何ができないのかっていうことをしっかり観察する。
そして、しっかり観察して、じゃあできないところは誰かがケアしなきゃいけないじゃないですか。そうしたら、それを家族がするのか、家族ができないんだったら、そこにプロを入れるしかないわけですから。
もしかすると、それは施設っていうことになるケースもあるし。
だから、私は介護はマネジメントだと提案しているんです。
今、困ったこと、お仕事と同じように、課題を探して、そしてその課題を潰していく。そのためには、やっぱり、プロの手を借りるにはお金が必要です。
大垣 そうですよね。
太田 だから、親御さんがどのぐらいお金を持っていらっしゃるかっていうことによって、ずいぶん変わってくるし。でも、一方で、親御さんは、年金をちょびっとしかもらっていないっていうことであったら、いろんな医療費とか、介護費とか、軽減していく制度もあるし。そういうものがあるっていうことを知っていたら、なんとかなっていくんですね。
で、あるいは、年金はちょびっとで、現金はないけれども、家はあるっていう親御さんは非常に多いから、もしかすると実家の現金化を考えなければいけないっていうこともあるかもしれないし。
でも、いろんな方法があるから、遠距離介護っていうのは、お仕事をしながらやっている人は、男女問わず、緻密に考えていって、ときには親御さんがサ高住なんか嫌だとか、施設なんか死んでも入らないとか、おっしゃるんですけど。
大垣 これ、今のご両親って、そういう世代だと思うんです。もう少し視点を変えたいんですが、これから僕らは、そういう親になっちゃいけないですよね。
太田 そうなんです。
大垣 今が大変なのはそうなんですけど、自分たちは少なくとも、自分がやったことは子供には絶対させたくないから、そうすると、どういうふうに備えていくかっていうところのノウハウが、もっと共有されないと。
太田 とても大事なことは、今、本当に大変な介護をしていらっしゃる方が、本当に多くて。それを連鎖させちゃいけないって思っているんです。
大垣 早めに子供と話をしていたほうがいいんでしょうかね。
残間 子供とっていうより、自分の覚悟の問題だと思う、親世代は。子供に言ったって、子供はリアリティないもん。
大垣 アメリカだと、相続をする前に、自分が認知症になったところで、すでに財産処分をするというので、信託をやったりっていうのが普及しているんです。そういう発想が全然ないじゃない。
残間 日本は先に、情が絡むのよ。
大垣 自分で、後始末は全部早めに終わらせておくような手立てっていうのがないと、結局、介護保険が充実していても。
残間 でも、言いにくいんだよね。死っていうものを語らないといけないから、お互いに。親の、我々の世代は、団塊の世代は特にそうですけど、自分たちがどうするかっていうのを、書き留めるなり、日常から言っておくなりは、みんな、遅ればせながらしていますね。
太田 だからこそ、親の介護に自分のお金を注ぎ込むことはやめましょうって。体力と。その代わり、自分が老いたとき、介護が必要になったときは、自分のお金を使うわけだから。親の介護をしながら、分かるじゃないですか。お金の移動がどれほど難しいかとか。
だからこそ、自分が老いた時に、もし自分の判断力が低下したら、自分はどのお金で・・・どのお金でって言っても、自分がお金をおろしに行けないことだって十分あるし。
それが子供のいる方であれば、子供に言っておくのか、あるいは、信頼できる第三者、あるいは任意後見をつけるとか。いろんな方法があるので。
残間 制度も変わるしね、ちゃんと見てないと。
鈴木 まだまだお話を伺いたいんですが、お時間になってしまいました。太田差惠子さんと安藤なつさんの共著『知っトク介護 弱った親と自分を守る お金とおトクなサービス超入門』(カドカワ、2022年)税込1650円で発売中です。ぜひお読みください。
残間 他にもいっぱい本を書いていらっしゃるから。
鈴木 私も気になるタイトルがいっぱいです。きょうはありがとうございました。
残間 先んじて勉強しましょうね。
大垣 僕が喋り過ぎたから、最後に何か。
太田 女性で90歳まで生きる人、二人に一人っていう数字ですよね。男性が4人に一人なんですけれども、女性の場合、4人に一人が95歳まで生きるわけです。っていうことは、人生100年時代は、何も大袈裟じゃない時代に入っていて。そうすると、やっぱり、お金は大事なんです。女性に関して言えば、105歳ぐらいまで生きると考えて計算していかないと。
残間 今70だとすると、35年って結構大変だね。それと、病気にかかる率も、健康寿命っていうのがまた、女性のほうがちょっと短いですものね。
太田 年金に関しては、ありがたいことに死ぬまで出ますが、貯金を取り崩していくっていう場合は、割り算を間違えると、持っているお金でどういうふうに老いていくかっていうことを、しっかり。
残間 一応、100までと考えて割り算をするしかないね。
太田 そうですね。自分のこれからのためにお金を使っていくのがいいんじゃないかなって思っています。
一同 ありがとうございました。
鈴木 きょうのお客様は、介護・暮らしジャーナリストの太田差惠子さんでした。ありがとうございました。