フィデューシャリーデュティー
水谷 家とお金を考える、大人ライフアカデミー。聞いて得する、家とお金を中心とした豆知識のコーナーです。きょうは何のお話でしょうか。
大垣 この頃、業界で流行りの、フィデューシャリーデュティーっていうものを。
残間 何、それ。
大垣 あんまり聞いても分かんないよね。
残間 業界って、何業界。
大垣 金融業界。
残間 分かんない。
大垣 金融庁の長官で森さんっていう人がいて。その人が突如、銀行とか保険会社とかにフィデューシャリーデュティーっていうものがあるんだって。デュティーっていうのは義務っていうことですけど。
残間 うん。
大垣 大事な概念で、言ってらっしゃることは、思ってることはよく分かる。さっきもちょっと、銀行の悪口を言いましたけど、お客さんの側のニーズをもうちょっと考えて、お客さんにいいことしてやれよと。俺が儲けたいことじゃなくてっていうことなんですけど。
やっぱり、マイナス金利だったでしょう、全然儲からないから、いろいろとんでもなく「俺が儲かること」が今、はびこっちゃって。ちょっと、それでいいんですか? みたいな議論になってるんですけど。ちょっと難しい概念なので、なんとなく、分かりやすくしてみると。
普通は、善良なる管理者の注意義務っていうのを負うわけ。要するに、何かやるときは、「あなたは銀行員なんですから、銀行員の能力なりにちゃんとやりなさいよ」と。で、「俺はちょっと駄目なので、できない人なので、できない人なりでいいですか」っていうと、それは駄目。普通のレベルでちゃんとやりなさいよと。やってなかったら注意義務違反、損害賠償ってなるんですけど。
認知症になったとしますよね。それで、後見人が付いたとしますよね。例えば、ダン野村が野球選手の交渉をやるとき。当然その間は委任だからよろしく頼むよって言って頼んでるわけですよね。その場合は、例えばダルビッシュはちゃんと、ダン野村がチェックしてますよね。ちゃんとやってるかどうか。で、サボってたら怒りますよね。そういう関係も委任委託の関係なんだけど。
認知症の方と、後見人の方も、そういう意味では「よろしく頼むよ」の関係ではあるんだけど、別に頼んだのかっていうとそうでもないし、そもそもちゃんとやってるのかチェックしようと思っても、チェックできないから後見人が付いてるわけですよね。そうすると、これはどっちも法律でいうと委任の関係なんですけど。
残間 五分五分ではないよね。
大垣 結局頼まれた側がものすごく裁量が大きいし、相手は自分のやってることにチェックかけられないですよね。そういうとき、アメリカでは、それはもう、普通の頼んだときの善良な管理者の注意を払えっていう、デューティーオブケアっていうんですけど、それもあるんだけど、フィデューシャリーになったっていうんですね。すごく信頼を受けて、ものすごく信頼される人になった。で、なった以上、チェックできないから、自分が失敗したから責任を負うとかじゃなくて、失敗しようがなんだろうが。一番極端な話、自分が・・・。例えばこの車欲しいなと思ってて、自分に頼んでくれている人も欲しいだろうと思うし、俺も欲しいって思ってるときに、普通は、絶対相手にいいようにしないといけないっていうわけじゃないんですけど、そういう立場にある人は、絶対、自分を相手よりも後ろにしなさい、相手の利益だけ考えなさいっていうふうに、ものすごく厳しい任務を負って。
無過失責任っていうんですけど、自分に違反がなくても、相手に損害が出たら、ちゃんと責任を持たないといけないっていう、非常に厳しい義務を負わせるんですね。
こういうふうに、相手にチェック能力がないときに何かを頼まれてる関係と、そうでない関係とを区別するっていう概念がアメリカにはあって。日本はないんです、それが。あんまり。
それで、金融機関なんだけど、例えば残間さんのところに「これどうですか」って持ってきますよね。
残間 金融商品を?
大垣 うん。そうすると、何を持ってこられているのかっていうのが分からないやつが最近多いわけよ。
残間 全然分からない。
大垣 それから、一見分かりそうでも、いろんな引っ掛けみたいなのがあって分かりにくかったりするときに、これまでの金融機関の言い方っていうのはリテラシー向上っていう言い方をして。リテラシーって、どっちのリテラシーかっていうと、客がもっとリテラシーを上げろっていう言い方をするんですよ。「国民に金融教育をしないといけない」とか、よく書いてあるでしょう、新聞に。
よく考えたら、おかしいと思いません?
車を売るときに、俺がとにかく車を売ってやるんだから、お前はもっと車の勉強しろって言ってるのと全く同じで、なんでそんなことしないといけないんだ? っていう。お前が車が何なのか教えろよっていう。
残間 自分が自分でリテラシーを高めたいっていうことはあってもね。
大垣 そういうことはあってもね。お前に言われたくないって思いません? 売ってる人に。ところが、リテラシーとか金融教育とかって、そういう議論を、金融界の人って、すごく普通にするわけですよ。リテラシーが低いって、聞きません? 会議でよくあるんですよ。
残間 放送なんかではそう言うね。
大垣 これ、最後どこに行き着くか知ってます? リテラシーがある人が、ちゃんと説明してもらって判断したんだよと。そうすると、自己責任っていうのになる。
残間 そうか、そうか。
大垣 これは言わないといけないわけです。なんでかっていうと、危ないものだから、上がったり下がったりするから、下がったときに自己責任って言おうと思ったら、ちゃんと聞きましたと。で、聞いても分からないじゃないかと言われるので、リテラシーを上げてくださいと、そういうわけです。
残間 だけど、リテラシーの度合いを測るものってないじゃない。
大垣 だから、それは自己責任から逆算していくだけの話で。
残間 まあ、ひどい。
大垣 だから、結構ひどい話になってるわけ。そうすると、皆さん、思っていただきたいのは、事実だけ言っておくと、私もそっち側にいたので分かるんですけど、結構儲かるものを持っていこうよということになっているぞと。だから、一番として、あんまり私のために持ってきてるとは限らないと思ったほうがいいっていうのは一つね。いいものもあるとは思いますけど。
残間 遂行しているかどうか分からないじゃないね。
大垣 だけど、日本だと、そのときに、義務を遂行しなかったって文句を言う人が立証しないといけないんですよ。
残間 そうだよね。
大垣 アメリカは、損が出ちゃったじゃんかって言えば、もはや、俺はやることは全部やったっていうのを相手が立証しないといけないんですよ。それは通常負けるんですよ。そんな立証は難しいから。ここが天と地とぐらい違うので。
残間 そうか。
大垣 もうちょっと、僕らは、「そうか、大臣がリテラシー低いって言うんだから低いのかな」って思って、株買って損したのは自己責任だよな、って思うんじゃなくて、お前がもっとちゃんとね。分かるように説明して、リスクがないかをちゃんと言えということを思うようにしていかないと。
残間 私みたいに疑りの気持ちから入ってるからね。もう私はいいんです、床下にでも埋めときますって。床ないんだけど、マンションだから。マンションだけど、ほっといてくださいって。
大垣 リスクの話はまた別にしたいと思います。
残間 はい。
水谷 家とお金を考える、大人ライフアカデミーでした。