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生命保険数学の専門家・山内恒人さんに、保険について色々聞いてみました

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鈴木 では、ご紹介しましょう。きょうのゲスト、山内恒人さんです。よろしくお願いします。

山内 よろしくお願いします、山内です。

残間 生命保険数学って、数学って聞いただけで身の毛もよだつんだけど・・・。

山内 (笑)。

残間 どういう研究なの。

大垣 生命保険に数学が絡んでいるっていうことが分かっている人がいないですよね。

山内 なるほどね。

残間 数字が絡んでいるのは分かるけどね。

大垣 本当は、数理人っていうのは、おそらく、司法試験より難しいんじゃないかな。とにかく、受かるのに随分時間がかかりますよね。

残間 本当、試験があるの。

鈴木 数理試験。

大垣 身の毛もよだつような試験ですよね、僕らから見ると。

鈴木 山内さんのプロフィールをまず簡単にご紹介します。1958年、東京三鷹のお生まれです。慶應義塾大学大学院修士課程終了後、ソニープレデンシャル生命保険、アクサ生命保険サムスン生命などを経て、2016年から慶應義塾大学理工学研究科の特任教授でいらっしゃいます。

大垣 まずは、数理人がなんでいるかっていうことを、ものすごく簡単に・・・。

山内 そうですね。数理人っておっしゃっていただいたんですが、実はアクチュアリーといっていただいたほうが良くてですね。保険会社って、結構数学なんですよ。どこの生命保険会社も、損害保険会社も、信託銀行もそうなんですけれども、定期的に数学職っていうか、数学科の学生を取るんですね。要するに、彼らが商品も作り、決算もやるということなので。だから、ビジネスの根幹なんです。

大垣 長い時間、いつ死なれるか分からないっていうのが生じてきますでしょう。だから、生命表っていうのがあって、それを確率的に出すんですけど。

残間 それって、長寿の時代になったから変わるとか、そういうものじゃないの。

大垣 違う。

山内 かれこれ、この歴史は200年、300年あるんですよ。で、数学のいいところって実はありまして。人生100年時代とかいうじゃないですか。本当かどうかは分からないんですけれども。たとえば100年だとすると、今から契約して、もしかすると死ぬのが100年後っていうことになるわけですよね。そのときに、記録としていろいろなものが残っていないといけないんですけど、文章で残すと、いろんな解釈の誤りとかがありますよね。ところが数式って、確定するんですよ。ですから、数式で書いておくと、間違いがないんですよね。人が変わり、いろんなものが変わっても、数学で残しておくっていうのは、100年後も意味があると。

大垣 やってることが同じだからね。

残間 私たち素人からすると、数式だって、環境とか、世の中の流れとかで、出てくる数字が違うだろうって思うじゃない。

大垣 人の死に方ですからね。

山内 (笑)。

大垣 200年前からあるっていうところが、ある種単純なんだけど、逆に今だったらコンピューターでやれちゃうことがやれないわけだから、それを。

残間 いろんな要素を絡めて編み出すんじゃないの。

山内 要素は、実は、生命保険会社の場合、ものすごく簡単で、実は、生命表と、そのときの金利。あと、そのときの事業費だけなんですよね。

鈴木 へえ。

残間 でも、金利って変わるじゃない。

山内 金利は変わりますけど、固定しちゃうんです。

大垣 山内さんに、私、大学にいるときに、社会人向けのコースで、そこを分かってもらいたいっていうので、「山内さん、猿でも分かる生命保険数理やって」とかって言ったら、過激なことに受けてくださって。でも、本当に電卓でできるっていうのを教えられた。これは素晴らしくお上手。

残間 へえ。

大垣 一度ね。

残間 一般の人とどう関係するの。

大垣 簡単にいうと、払い込んだ保険料の合計と、払う保険金の合計が同じになるように計算すればいいだけ、って言っちゃっていいんですよね。

山内 結局はそこです。

大垣 ただ、そこがよく分かんないから計算が難しいっていうことですよね。

山内 原理原則はすごく単純なんですよね。

大垣 でも、僕は非常に印象的だったのは、私ら素人からすると、日本生命だろうが第一生命だろうがアクサ生命だろうが、同じ生命表だから、全然一緒にしかならないじゃんとかっていうと、ここがすごい通で。それでニヤッと笑った山内さんがいろんな裏技をね、教えてくださって、なるほど奥が深いなこの世界はと。

残間 何が違うの。

山内 古い、昔からある生命保険会社さんって、昔からの因習に縛られているところがあって、そこから動きようがないんですよね。ところが、新しい生命保険会社さんは。

残間 因習って、例えば。

山内 使ってる事業費でも、先祖伝来みたいな感じの事業費をそのまま使ってたりですね。

大垣 多すぎるわけよね。

山内 はい。とにかく、認可事業ですから、ともかく、プロフィット取り放題みたいなところがどこかにあって。

大垣 びっくりしたのは、銀行員から生命保険に行って、桁が二つぐらい違うんですよね、儲かり方の。

残間 へえ。

山内 実はね。

大垣 なんでそんな美味しいのって思っちゃったよね。あんまりそういうこと言うとね(笑)。

残間 保険好きだから、保険ってかけてるじゃない。なんとなく保証してくれる気がするっていうところにお金を払ってるだけだから。

大垣 それはそうなんです。

残間 裏側でどんなことが。

大垣 悪いことをしているわけじゃないんですけど、やっぱり、伝統的なね。

山内 もともと考え方は何かっていうと、とにかく潰れちゃいけないっていうのがあるんですよね。

残間 そうか。

山内 100年間潰れちゃいけないっていうのは、すごいことで。

大垣 硬め硬めになるわけ。

山内 コンサバティブになるんですよね、保守的に。だから、100年間潰れちゃいけないっていうのは、大変なことですよ、考えてみたら。

鈴木 商店だって100年はね。

大垣 そこを、色々ネゴしながら色々やっていくと。

残間 でも、途中で変わったりしないの? 最初に入った時から条件その他。

山内 これは、基本が、お客様から基本がない限り変えられないんですね、保険会社は。

大垣 でも、それが、だんだんずっとこの何十年は死ななくなる方向だったでしょう。だから、40年前に計算した保険料はもっとたくさん人が死ぬと思って計算してるわけ。ということは、保険料は高いわけ。それがだんだん死ななくなるから、儲かるわけ。

残間 死ななくなると儲かるの?

大垣 保険金を払わなくて済むから。

残間 あ、そうか。

鈴木 そのへんのところは曲を挟んでお届けしたいんですけど。

大垣 もうそんなに時間が経っちゃった。

鈴木 きょうは山内恒人さんにお話をうかがっていきますが、ここで一曲、きょうは第一週なので大垣さんのリクエスト。

大垣 実は山内さん、CDのプロデューサーもおやりになっていて。

鈴木 今、私の手元にもCDが。

大垣 ところが、これがまた数学者・山内さんがやるから、まあ通な人で、アイヴスっていう人で。アメリカ人なんですけど。これがなかなか理屈っぽい音楽を書く人で。最近作られたやつで、芸術賞を取られたんですよね。

山内 このCDがですね。

大垣 バイオリンソナタの、これは素晴らしいんですけど、ちょっとラジオで流してパッと分かるかっていうと、ちょっと分かりにくいので・・・。きょうは、入門編ということで、山内さんから怒られちゃうんですけど。

山内 いえいえ。

大垣 交響曲を書かれていて、交響曲の第2番の第5楽章っていう。これは最後のフィナーレなんですけど。この交響曲は、皆さんがよくご存じの旋律をコラージュみたいにして作ってあるので、わりと耳にあたりがいいんだけど、アイヴスだよなっていう。

残間 山内さんがプロデュースしてるの。このCDは。

山内 はい。

大垣 私がかけるやつは違いますけどね。それで、ちょっと、アイヴスっぽいなっていうのが分かる曲なので、かけていただこうかなと。

鈴木 では、チャールズ・アイヴス、交響曲の第2番の第5楽章の抜粋です。

鈴木 引き続き、山内恒人さんにお話しを伺います。

大垣 生命保険の裏側までご存じの、せっかく山内さんに来ていただいたので。やっぱり、色々、ときどき話題になるんですけど、最近、シニア層に対して。

残間 85まで入れますとか。

大垣 生命保険もそうだし、医療保険もそうだし、あと介護保険とか、いろんなものが出ていると思うんですけど、どういうふうに買ったらいいんですかと。

残間 どれ買ったらいいんですかとか。

大垣 ちゃんとしたものはどれですかって聞かれると、意外と難しいんですよね。

残間 CMで、孫達が出てくると、「あんた達に迷惑はかけないようにするからね」みたいなさ。なんか嫌な感じだよね、あれ。

大垣 答えにくいかもしれないけど、そういう意味で、山内さんから見ていて、これは買ってもいいのかなっていうのはありますかね。

山内 やっぱり、生命保険に何を求めるかっていうことだと思うんですよね。今、よく行われているのが、外資建の貯蓄保険っていうのが。批判もあるんですけど、僕、いい悪いではなく、そういう商品の存在意義もあるんですが、やっぱり、ちょっとそっちのほうではなくて。やっぱり生命保険であるなら、保証を買うのが一番っていうのは、本当は思うんですよね。

残間 いろんな保証がありますよね。入院給付とか。

山内 やっぱり、入院って、みなさんすごく気になさる。僕の母親も実際に、2年前に亡くなったんですけど、やはり、長期化するとやっぱり一時金が欲しくなるんですよね。そう考えると、高齢者の入院給付金のある商品って、やっぱりいいなと思うんですよね。

大垣 そうなんだ。

山内 悪くはないと思う。

大垣 でも、あるところからになると、あんまり、みんな入院するわけじゃないですか。だから、若いときはたくさんいる人の中でちょっとだけ病気になるから保険なんだけど、だいたいみんな入院するってなると、保険料が高く。

山内 もちろん、高齢者が高齢者のままになったときに加入するとすごい高いんですよ。

大垣 若いときにね。

山内 だから、60歳ぐらいから加入して備えておくと悪くはないですよね。

残間 75過ぎたりすると大変。

大垣 そうだね、60から入ったって、本気でヤバくなるのは、普通は80超えてからとか。

山内 ええ。

大垣 20年ぐらいは積み立て期間があるってことですか。

残間 それと、今、日帰り入院みたいなのに給付金が出て。私の友人が、この間目の手術をしたら、それが、すごく高い高次医療は今、たとえば白内障は認められなくなったんだけど、2、3年前から。でも、普通の保険がきくものは認められるわけ。で、あとで後発性の白内障になったら、またそれが出て。結局、何倍かの、お年玉が来たみたいになって喜んでるんだけど、そういうのもあるんだ。

山内 あります。高度医療関係の保証商品ってあるんですね。その中で結構重要だったのが、加入、皆さんよくされたのが、多焦点レンズっていって、白内障のための。あれが実は外れたんですよ。

残間 そう。私はそれを入れたから100万円以上するの、一切保険ダメよね、でない。でもそれは納得ずくだからしょうがないんだけど。費用がするのはね。

大垣 介護とかそっちは。

山内 介護は大変です、これから。本当に。介護給付、本当に、民間生命保険会社がやれるかっていうと、やっぱりできないですね。あんなに先が読めない上に、これからいくらかかるか分からない。

大垣 制度も変わっていくしね。

山内 ええ。ですから、今、民間生命保険会社がやっているのは、どちらかというと本当に補助的な給付で。やっている感じで。

大垣 要介護認定を受けると100万とか、そういうパターンのやつです。

山内 ええ。でも、今、日本の介護制度ってやっぱりよくできてると思いますよ。政府の。

大垣 これはこの間上野先生もおっしゃってましたよね。

残間 2000年から始まった介護保険制度が。

山内 私のお袋さんも、最後は要介護5で、自宅介護をしたんですよ、最後は。施設に入れようかと思ったんですけど、初めは入れてみたんですけど、あまりにかわいそうで。で、とにかく自宅に引き取ったんですが、でも、本当に、要するに政府の介護保険がなければやっていけなかったですよね。最終的に介護で重要なのはお金じゃないですね、人手。

残間 それはそうですね。

大垣 そういう意味では、保険のあり方っていうのも変わっていくのかもしれませんね。

山内 本当は、人手を出せばいいんでしょうけど、それは大変な給付になるわけですよ。

残間 今、かける人って、若い人はどうなんですか。結婚を機にかけるとか、子供が産まれてかけるっていうのはあるけど、20代の人ってあんまりかけてないみたい。

山内 多分、先生方、私もそうですけれども、若いときに、職場に行くと、保険のおばちゃんっていう人がいらしてですね。それで、昼間眠いのに、背中をトントンと叩かれて、ここに名前を書きなさいっていう感じで。加入したっていうご経験がおありになったと思うんです。今は、全然ダメなんです、それが。要するに、会社の中に入れない。

大垣 入れさせてもらえないね。

山内 結局、若いときに生命保険に触れるチャンスっていうのがすごく減ってしまったんです。

大垣 あと、あの頃はやっぱり、保証っていうよりも、それでお金を集めてダムを作ってたりしたわけです。というのは、一旦お金を預かっても、払うまでに時間がかかるでしょう。だから、生命保険会社は一番長いお金を扱えるわけ。だから、そこで、皆さん保険をかけなさいと。おばちゃんって言われてる人たちは、わりと当時ですから、戦争未亡人の方もたくさんいらっしゃって。それがうまく回ってたんですね。今はもう、ある意味そういうことは全然必要ないわけだから、割り切って保証を、死んだときどうするっていうところだけ買えば、本当は安いんだよね。

山内 はい。本当に、今、保険に触れるチャンスが少ないものですから、若い人たちは。そういうチャンスをたくさん作らないといけないと思うんですよね。昔、無理無理加入させられたっていうのは、実はそんなに悪いことではなかったんですよ。

残間 あとでみんな喜んでたもんね。無理無理だったけど、よかったみたいにね。

大垣 当時は、利回りも高いですからね。

残間 今、外資に飛びつく若い人っていうのは、結構多いですよね。

山内 かっこいいですからね、外資。でも、やっぱり、民間生保の主軸っていうのは、やっぱり、日本の古い保険会社で回ってて。やっぱり、先ほどから申し上げたように、100年っていうタイムスパンをぜひ考えてもらいたいんですよね。若い人と話をするときに、ちょっと得をしたとか、ちょっと損をしたっていう話を、好むんですよね、彼らは。そういう話には、私は答えないって言ってるんです。特に、生命保険に関しては。そうじゃなくて、100年っていうタイムスパンを考えてほしいっていう。その中で、安心して給付が受けられるっていうことを考えたら、ちょっと勝ったとか、ちょっと負けたとか、そんなことは関係ないんですからと。

残間 株じゃないんだからね。

鈴木 まだまだお話をうかがいたいところですが、お時間となってしまいました。

残間 また来ていただいて。

鈴木 そうですね、すごく勉強になりました。生命保険数学の専門家で、クラシック音楽の研究家でもあられます、山内恒人さんにお話をうかがいました。ありがとうございました。

一同 ありがとうございました。